Gemini APIで満たせない自治体要件レポート

磐田市「生成AIチャットボット導入・運用業務」仕様書との対比分析

2026年4月2日 ふくろいAIラボ

1. 背景

磐田市が2026年4月1日に公告した「生成AIチャットボット導入・運用業務」プロポーザル(予算99万円)の仕様書を基準として、Google Gemini APIで同等のシステムを構築した場合に、満たせる要件と満たせない要件を整理しました。

本レポートは、自治体がAIチャットボットを導入する際に、クラウドAI APIの制約を正しく理解するための資料として作成しています。

2. 全体サマリー

カテゴリ満たせる条件付き満たせない
AI・回答機能(10項目)820
セキュリティ(6項目)312
利用者向け機能(7項目)700
管理者向け機能(10項目)910
運用・保守(12項目)822
法務・契約(5項目)113
合計(50項目)3677

3. 満たせない要件の詳細

3-1. 「利用者の入力情報を第三者に提供しないこと」

仕様書: 運用保守要件⑻「利用者が生成AIチャットボットに入力した情報を第3者に提供しないこと」

Geminiの実態: Gemini APIを使用すると、利用者の入力テキストはGoogleのサーバーに送信されます。有料プランではGoogleがデータを学習に使用しない契約ですが、データが「第三者(Google)のサーバーを経由する」事実は残ります。

影響度: ── 自治体の個人情報保護審議会で問題視される可能性が極めて高い

代替案: ①Vertex AI(Google Cloud)のエンタープライズ契約でDPA(データ処理契約)を締結 ②入力から個人情報を除去してからAPI送信 ③ローカルLLM(コスト大幅増)

3-2. 「サーバの設置場所が日本国内であること」

仕様書: システム構成・セキュリティ要件エ

Geminiの実態: Gemini API(ai.google.dev)のサーバー所在地は非公開。Google Cloudの東京リージョンを使うVertex AI経由であれば日本国内にデータを保持できますが、推論処理自体がどこで行われるかは保証されません。

影響度:

代替案: ①Vertex AI東京リージョン(月額大幅増) ②国内クラウド + ローカルLLM

3-3. 「日本の地方裁判所を専属的合意管轄裁判所とすること」

仕様書: システム構成・セキュリティ要件エ

Geminiの実態: Google APIの利用規約はカリフォルニア州法に準拠。日本の地方裁判所を「専属的」管轄とすることは、Google標準規約では不可能。

影響度: ── 法的要件であり技術的な回避策がない

代替案: ①Vertex AIのエンタープライズ契約で個別交渉(高額) ②国内クラウドサービス利用

3-4. 「ISO/IEC 27017認証を受けていること」

仕様書: システム構成・セキュリティ要件エ

Geminiの実態: Google Cloud PlatformはISO 27017認証を取得済み。ただし、Gemini API(ai.google.dev)はGoogle Cloud Platform(Vertex AI)とは異なるサービスであり、認証の適用範囲が不明確。

影響度: ── Vertex AI経由なら満たせる

代替案: Vertex AI経由で利用(コスト増)

3-5. 「契約終了時にデータを削除し、削除完了の報告書を提出すること」

仕様書: 個人情報の保護⑷

Geminiの実態: API経由で送信されたデータがGoogleのシステム内で完全に削除されたことを証明する手段がない。Googleのデータ保持ポリシーは受注者がコントロールできない。

影響度:

代替案: ①公開情報のみ送信し、個人情報はAPI送信前にブロック ②利用規約で「公開情報のみ使用」を明記

3-6. 「24時間365日緊急対応体制」

仕様書: 管理者向け機能要件⑽「緊急時には24時間365日対応できること」

Geminiの実態: Gemini API自体は24/365稼働だが、「緊急時の連絡体制」はAPI機能ではなく、運用体制の問題。ふくろいAIラボの規模で24/365オンコール体制を維持することは現実的ではない。

影響度: ── 実証実験レベルでは不要

代替案: ①営業時間内対応 + 障害時の自動通知 ②監視サービス(UptimeRobot等)で障害検知

3-7. 「四半期ごとのAIリスク評価報告書」

仕様書: リスク管理・ガバナンス要件⑶

Geminiの実態: 技術的な制約ではなく、人的リソースの問題。報告書作成には専門知識と工数が必要。

影響度: ── 実証実験レベルでは簡易レポートで代替

代替案: 管理ダッシュボードの統計データから自動レポート生成

4. 満たせる要件一覧

要件実現方法状態
LLMによる自然言語回答Gemini 2.5 Flash
RAG(市HP情報参照)コンテキスト注入 / File Search
15秒以内の回答Gemini Flash: 1-3秒
Web自動クローリング・更新Cheerioクローラー + cron
引用元リンク表示ソースURL抽出・表示
関連度スコア表示・閾値調整スコア推定 + 管理画面で調整
ハルシネーション対策RAGグラウンディング + システムプロンプト制御
プロンプトインジェクション対策入力サニタイズ + パターン検出
バイアス・差別表現フィルターGemini Safety Settings + 出力フィルタ
個人情報マスキングPII検出フィルター(正規表現)
レスポンシブUIHTML/CSS実装
フィードバック機能良い/悪い評価 + DB記録
管理ダッシュボード統計・ログ・設定管理画面
CSV出力ログデータCSVエクスポート
利用ログ記録SQLiteに全記録
SSL/TLS暗号化通信Cloudflare / Vercel(自動HTTPS)

5. コスト比較

項目磐田市方式(仕様書準拠)Gemini API方式(本プロジェクト)
AI基盤ローカルLLM + GPU: 30-80万円/月Gemini API: 約5,000-8,000円/月
インフラISO 27017認証クラウド: 5-10万円/月国内VPS(4GB RAM): 約1,700〜2,200円/月
初期構築300-800万円約50-100万円相当(エンジニア工数)
年間運用120-240万円約10-13万円
年間合計(運用のみ)690〜1,650万円約10〜13万円
初年度合計(構築+運用)810〜2,450万円約60〜113万円

6. 結論・推奨事項

Gemini APIは「実証実験・デモ」に最適

公開情報のみを扱い、個人情報入力をブロックする設計であれば、Gemini APIで実用的な生成AIチャットボットを年間10万円以下で運用できます。磐田市の予算99万円でも十分お釣りが来ます。

自治体の正式調達には追加対応が必要

「第三者提供禁止」「国内サーバー」「日本法準拠」の3要件を厳密に満たすには、Vertex AI(Google Cloud)のエンタープライズ契約、または国内クラウド + ローカルLLMが必要です。いずれもコストは大幅に増加します。

磐田市の99万円では、どの方式でも仕様書全要件は満たせない

Gemini APIなら技術的には構築可能ですが法務要件を満たせず、ローカルLLMなら法務要件は満たせますがコストが予算の7〜29倍。要件か予算のどちらかを見直す必要があります。